フルーエントマンツーマンコースの中で、ご受講生の中国語学習に伴走するトレーナー。普段学習のサポート役として活躍する彼らですが、トレーナー自身はこれまで、どのように中国語の勉強を積み重ねてきたのでしょうか。
トレーナーとひとことに言っても、中国語との出会いや、勉強の期間、方法などは人それぞれです。6回目となる「おしえてトレーナー!ぶっちゃけ听力、どうやって鍛えたの?」の連載記事でも、トレーナーにお話を聞きながら「どのようにして中国語を学び、その力をどう向上させてきたのか」という過程を、特に「听力=リスニング」という観点にスポットをあて、徹底深堀りします。
トレーナーそれぞれが実践してきた具体的な学習方法を検証することで、中国語が聴きとれるようになるまでの具体的な段階、どのような過程をへるのか、そして、外国語を学ぶ上で大切なマインドセットなどもあわせてお伝えしたいと思っています。
ぜひ、ご自身の学習の参考にしてくださいね。それでは、6人目のトレーナーをご紹介いたします。
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(取材:中国語ゼミ編集部 永田 )
Vol.6 渡邊トレーナー
目次
「中国古典、歴史を学びたい」強い想いが進路決定の鍵
永田:渡邊トレーナーは、高校生の時にすでに「中国」への興味をお持ちだったんですよね!
渡邊トレーナー:そうですね、高校三年生の時には、中国の大学で本科生になる、という選択肢を含めて進路を考えていました。ですので当時はセンター試験の準備もしながら、NHKの講座で中国語も勉強していたんですよ。
永田:高三生で「中国の大学へ行こう!」と考える人は、そう多くはないのかなと思うのですが。
渡邊トレーナー:私の場合は、中国の古典文学や古代思想、中国哲学などを学びたいという明確な希望があったので、それなら日本国内よりも、中国で学んだ方がより本質的なことに触れられると考えました。また、私が通っていた高校というのが、外国の生徒が多く通う国際色豊かな学校で。高校卒業後は海外へ留学する、という子もたくさんいました。
永田:なるほど!いろいろな国にルーツのある方々と触れ合う機会がその頃すでに多々あったのですね!
渡邊トレーナー:留学にあたっては、「中国古典を学ぶなら、中国へ行くことは大事だよ」と、父が背中を押してくれたことも大きかったですね。また、仏教の経典はインドから中国へわたり、漢訳されたものが多くあるので、それを読み下せるようになりたいという想いも強かったです。
永田:渡邊トレーナーはそうして、高校卒業後いよいよ中国に渡られたのですよね。
現地でぶつかる語学の壁。打破したのは●●を重視した勉強法
渡邊トレーナー:今も中国に経った日の具体的な日時まで鮮明に記憶しています。中国の大学は9月から新年度が始まりますから、まず上海で語学研修をして、半年かけて準備をします。当時はHSKが8級あり、9月の入学までにHSKの7級を取るべし!と言われたのです。そうしないと、大学には入学させられないと。
永田:ほう…。
渡邊トレーナー:9月の入学までとはいえ、HSK試験は7月にあったので、実質4カ月の期間で勉強をし、なんとかクリアしました。
永田:短期集中ですね!その当時はどのような生活スタイルだったのでしょう?
渡邊トレーナー:朝の8時から15時まで授業、それが毎日です。そして授業が終わった後に街に繰り出していました。料理が好きだったので市場に行って、そこで値段交渉をして現地の人と交流したり…。
永田:中国の市場はインパクトがありますよね!
渡邊トレーナー:牛一頭さばいていたり、見たこともない野菜が山積みになっていたり。授業を含めて中国という世界を満喫していました。
永田:楽しい時間だったのですねぇ。
渡邊トレーナー:楽しかったですね。雑多な店がたくさんあって、にぎやかで。活気を肌で感じていました。
永田:当時、語学学校には生徒さんは何人くらいいらしたのでしょう。
渡邊トレーナー:20人くらいでしょうか。語学学校での事前研修が終わり次第、それぞれが希望している大学に行く予定でした。場所は変わってしまったのですが、同志ですね。
永田:渡邊トレーナーは当初より中国には好意的な心持ちでいらしたと思うのですが、行ってみて驚かれたこと、想定外なことなどはありましたか。
渡邊トレーナー:上海に着いた当時、日本で学んで用意してきた中国語では、まったく通用しないということに驚きました。初級とはいえ、一冊文法学習なども終わらせて来て、ある程度は「準備してきた。」と思っていたのですが、聴いてもわからない、話しても伝わらないということに愕然としたんです。
永田:その理由は何だと考えられていますか?
渡邊トレーナー:当時はその理由がわからなかったのですが、おそらく発音の問題があったのでしょう。声がそもそも小さかった、ということもあるかもしれません。
永田:ピンインや声調といった知識はお持ちだったのですよね。
渡邊トレーナー:知識としては持っていたとはいえ、実践が足りなかったと思います。がっくりときました(笑) ですので気合を入れ直して本腰を入れて勉強をし、HSK7級を取るのですが、その後、南京大学へ移動して本科生になると、今度は授業がまったく聴きとれないんです。
永田:周りは皆さん中国人ですね。
渡邊トレーナー:さらには同級生の方言が強くて。南京といっても安徽省や小さな村から来た人もいて、なまりが強く聴きとれない。「ノート見せて」と頼んでも、達筆すぎて読めなかったり(笑)もういろいろ、呆然とすることが多々ありました。
永田:その環境はなかなかハードですが、相当鍛えられますね!その当時の具体的な勉強方法をお教えいただけますか。
渡邊トレーナー:すでに本科生として学んでいる先輩方、日本人だったり、マレーシア、シンガポール人だったりするのですが、に、勉強方法を尋ねました。
渡邊トレーナー:日常的に使われる中国語、口語(現代中国語)と合わせて、授業用の中国語というのも同時に学びました。歴史や古典を扱う授業ですから、普段使うような単語ではない言葉が多く使われます。そういったものを必死に覚えたりしましたね。
先輩方に教えてもらった勉強方法で、今振り返って特に「よかったな。」と感じるものは、カセットテープを使ったものでした。故事成語の語源やその言葉の使い方を、中国の子ども向けに説明した音源で、「とにかくこれを暗記しなさい。」と言われてテープをいくつかもらいました。常にこれ(=音源)を聴き、それにあわせて真似をするのが大事だと。話の内容はもちろん、抑揚なども意識して、繰り返しました。
永田:テープには文字情報はついていたのですか?
渡邊トレーナー:今思うと不思議ですが、テキストはありませんでした。だからこそ、余計に「音から理解しよう!」と、必死で聴いたんだと思います。「音のまま覚えよう!」と。
永田:日本人は中国語を学ぶ上で、漢字を知っているメリットがあるのですが、しかし実はこの点がデメリットにもなっている、と感じます。つまり、漢字を知ってしまっているからこそ、中国語の音ではなく、漢字(しかも日本語読みの漢字だったりする)に頼って中国語を「理解できてしまう」ことがある、と。その点、渡邊トレーナーは当時、漢字ではなく「音」を重要視し中国語を覚えようとされていたことに、驚きました。
渡邊トレーナー:「音」を重視するというのは、今現在の私の中国語の勉強に対する姿勢にも通じる点です。私自身、中国語を学んでいるときは、中国語を音楽のように聴いていると感じています。
永田:名言です!その感覚というのはどういったものでしょうか。
渡邊トレーナー:中国語ってメロデイが美しいんですよね。古典文学は特に「音の世界」なんですよ。例えば、中国語特有の离合词や连绵词“といった文法がありますが、音に注意していると、なぜそのように、単語の途中を切ったり、同じ言葉を繰り返したりするかが理解できます。中国語の単語は二つ、ないし四つのまとまりに収まろうとする傾向がありますし、その法則にそぐわない表現を避けようとするんですね。
永田:それは中国語という言葉が持つひとつの性質、のようなものと捉えればいいのでしょうか。
渡邊トレーナー:そうだと思います。中国古典から綿々と受け継がれている、音楽感性が中国語にあるのではないでしょうか。
永田:これらは中国での留学経験があったからこそ、気づき得たことなのかもしれませんね。
渡邊トレーナー:古典を学ぶと、中国語が音をどれだけ重視しているかがわかります。漢詩のルールとして、まず平仄(漢字が持つ音の上がり下がり)に沿って、詩文を決める必要があります。つまり、音のルールに沿って言葉を選ばないといけない。
唐代よりもはるか以前より、このルールは存在していました。また、中国だけではなく、世界各国の伝統的な詩や文学には、前提として音のルールがあり、それゆえ音楽性、リズム感…といったものが作品ひとつひとつに生まれるのだと感じています。だから、口ずさんだときに覚えやすいんですよ。
中国語が“外国語”ではなくなった瞬間。語学上達には文化的理解が必要
永田:古典文学を鍵として中国語の世界を広げていかれた渡邊トレーナーですが、「あ、聴きとれるようになってきた!」と感じられた瞬間というのは、どういうものだったのでしょうか。
渡邊トレーナー:ブレイクスルーの瞬間は、カセットテープで何度もなんども中国語を聴いていた頃にやってきました。中国語が音楽として耳に飛び込んできたのです。それまで頭で「こういうものだから」と理解しながら聴いていましたが、中国語の内的世界観、秩序と美しさをただただ、感じることができたんです。聴いていて苦痛でなくなるというのか。
永田:この言葉は渡邊トレーナーならでは、ですね。
渡邊トレーナー:素直に「きれいだな」と思えた、ということですね。
永田:聴いているのが心地よくなったんでしょうか。
渡邊トレーナー:何か目に見える、点数などに現れるような経験ではないのですが、自分の中では中国語の捉え方が変わった瞬間が、いわゆるブレイクスルーだったと感じています。文化を知ることで、中国語への理解が深まったというのが私の場合に言えることです。
永田:古典に詳しい外国人ということで、驚かれることもあったのではないでしょうか。
渡邊トレーナー:驚かれましたし、少しだけ特別扱いしてもらえもしました(笑)やはり、中国の人が大切にしている文化をこちらも尊ぶことで、喜んでもらえたり、距離が縮まるということはあるのでしょうね。
中国語を学ぶうえで大切なポイント
永田:ご自身がこれまで学習を続けるなかで実感された、学習上のポイント、大切な心構えなどがあれば、ぜひ教えていただいてもよろしいでしょうか。
渡邊トレーナー:私が尊敬する、シルクロードの研究者に季羡林という方がおられますが、この方は26の言語を習得したと言われているんですね。そして、この方の有名な言葉に
越是聪明人,越要懂得下笨功夫
というものがあります。直訳すると「賢い人であればあるほど、一見愚かしいと思える努力を続けていくことの必要性を知っている」というようなことになります。「いったいこれに何の意味があるのだろう」と感じてしまうような地道な訓練、地味な作業であっても、丁寧に続けることで、目標や理想に到着できるのではないでしょうか。
永田:深いです。
渡邊トレーナー:現代の私たちはつい何をするにしても「早く、効率よく」を優先しがちです。しかし大切なことは、理想に対して焦りすぎることなく、じっくり取り組むこと。すぐに理解できなくても、理解できないその過程でいろいろなことを調べたり学ぶうちに、深いところまで理解することができるかもしれない。短時間でできることではないですが、何かを成す過程で感じる苦しみの中にこそ、本当の学びがある気がしています。
これからの目標は
永田:これからの目標をおうかがいしてもよろしいですか。
渡邊トレーナー:私個人の考えですが、日本人は日本語の語源や私たち自身のルーツを、あまりよく知らないのではないでしょうか。そんな中、中国という外国のことを学ぶことは、日本人が自分たちのアイデンティティに気づき直すきっかけになるのではないかと考えているのです。そんなイノベーションの糸口になるようなことをしていけたらいいなと思っています。
あとがき
中国古典を専門に学ばれた渡邊トレーナーとのインタビューでは、「中国語の音」に関連したお話をうかがうことができました。
文字のない言葉は存在するが 音のない言葉はこの世に存在しない
といいます。このことを改めて思い起こす時間となった、今回のインタビューでした。学習にあたっては、音を重視すること。中国語を、音として理解する、ことが、中国語習得には欠かせないプロセスなのではないかと感じています。
皆さんの学習で、音に触れる時間はどの程度ありますか。見る(読む)時間と比べてそのバランスはいかがでしょうか。ぜひ、ご自身の勉強内容を考える際に、参考になさってください。
時にはテキストを置いて、中国語の音にひたすら身を埋めるような時間を持つのも、中国語を深く理解していくためには、大切なことかもしれません。抑揚、強弱、そういった点まで感じながら、聴くことができればいいですね。
中国の子どもたちが国語(中国語)を覚えるのに用いられることが多い「三字経」などを素材にしてはいかがでしょうか。短い言葉のなかに、中国の人が大切にしている価値観も垣間見え、興味深いです。
抑揚、強弱など、中国語ならではのリズムを意識しながら、音読、最終的に暗記までできてしまうともうばっちり。知らず知らず、中国語の基礎力がついていることでしょう。
記事をお読みいただきありがとうございました。
中国語ゼミ読者のみなさまは、
・ネイティブとの会話を楽しみたい
・仕事で中国語を使えるようになりたい
・HSK、中国語検定に合格してキャリアアップしたい
・ドラマや映画を字幕なしで楽しみたい
・旅行で使える中国語を身につけたい
などなど、夢や目標をお持ちだと思います。
そんなあなたにお願いがあります。
実は今回、「中国語スタート講座」の動画が完成し、このページをご覧いただいた方を対象にモニター受講生を募集します。
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講師は、中国語ゼミ監修者の三宅裕之。2001年に語学コーチングスクールを設立し、今まで15,000人以上を指導した語学×コミュニケーション力開発のプロフェッショナルが、わかりやすく解説しますので一生モノの知識を得られるはずです。
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